122 商標登録の必要性

商標登録をしないと自分の使いたい標章を、自分の商品や役務に使うことができないのか、といえば、そういうことはありません。他人Aが、現時点で取得している商標権(上図・下図白抜き部分)が及ばない範囲であれば、自分の使いたい標章を、自分の商品や役務に使うことができます。これは侵害とならない行為です(上図の右上り斜線部)。

 では、別の他人Bが自分の使っていた標章を自分の商品や役務に使用するものとして後から出願して、商標権(中図の白抜き部分)を得た場合はどうなるでしょう。他人Bが後から商標権を得たということは、自分が先に使っていたとしても、先使用権を得るに至らなかったということです。この場合には、それ以降、それまで自分が使っていた標章を自分の商品や役務に使うことは侵害行為となります。(中図の右上り斜線部)
 他人Bは、この侵害行為に対して止めるように警告を発し、止めなければ、差止め請求を裁判所に訴えることができ、他人Bに損害が生じていれば損害賠償の請求を裁判所に訴えることができます。

 このことから、今現在、自分が使っている標章について、他人から警告を受けていないからといって、将来も使い続けることができるかというと、そういうことはないことをご理解いただけると思います。
商標登録を受けておかなければ、いつ他人の商標権の侵害となるかわからない、という不安を解消できないことをご理解いただけると思います。

 逆に、今現在、自分が使っている標章について、商標登録を受けておけば、今度は他人がそれを使用することを防止することができます。そのような侵害行為に対して、警告を発し、止めさせることができ、必要に応じて損害賠償の請求をすることができるのです。
自分が使っている標章に、「登録商標」という表示を付けることができます。
商標登録しているということでブランド価値の向上を図ることが可能です。

 商標登録出願をすることで、自分の商標使用の正当性を確認できます。ある他人の登録商標と類似しているかどうか分からない場合に、商標登録出願をすれば、特許庁が類似・非類似の判断してくれることになります。
 自分では、今現在発見できていなくても、他人の類似商標登録が無いかも特許庁が調べてくれます。商標登録が認められれば、類似していないという判断を特許庁がしてくれたということになります。
 本来、他人の登録商標と類似しているために商標登録を受けることができない出願であって、万一過誤登録された場合でも、5年が経過するとそのまま商標使用を継続することが可能です。これは、出願時には他人の登録商標と類似しているために商標登録を受けることができない無効理由があった場合です。この場合には、利害関係者から無効審判の請求がなく、5年間が平穏に経過した場合には、今度はその法律状態を維持することを尊重する考え方が採られるからです。

 次に、他人Aの商標が、後から著名になるとどういうことになるのかを説明していきます。
 商標は継続的に使用することによって、業務上の信用をその商標に化体させていくことになるので、使っている商品や役務の事業が発展し、商標が著名になることがあります。このような場合に、商標権の範囲とは別に、混同を生じる恐れがある範囲というものが生まれます(下図の格子部)。
そして、これを商標権者がこの範囲を防護標章として設定できるのです。この防護標章が設定されると、その範囲での使用は他人の商標権の侵害とみなされます。こうすると、当初使うことができていた(上図の右上り斜線部)、他人の商標権が及ばない範囲でも、商標登録をしていなければ、他人の商標権の侵害と見なされてしまうことがあるのです(下図の右上り斜線部)。これが商標登録をしていなければ、後から使うことができなくなる二つ目のケースです。

 後から使うことできなくなるようなことが起きないように、自分の使いたい標章を、自分の商品や役務を指定して、商標登録をすれば、自分の商標を積極的に保護できるようになるのです。こうして、他人の商標権の侵害や、他人の商標権との紛争を積極的に防止することができるようになるのです。

 以上は他人の商標権との関係でしたが、他人の妨害的行為や不正競争行為に対しても、商標登録が非常に有効です。長年自分が使ってきた標章と紛らわしい標章を他人が使って、類似の商品を販売する場合などは、他人が自分の信用にただ乗りする行為です。また、同様に紛らわしい標章を使って、粗悪な商品を販売する場合などは、他人が自分の信用を傷つける行為です。商標登録をすれば、これらの行為を止めさせることが容易になるのです。こうして、他人の妨害行為や不正競争行為に対しても、積極的に対策することができるようになるのです。