413 譲渡で注意すること
商標権は、物権(特定の物を直接支配することができる権利)と同様に譲渡することができます。また、商標権が複数の商品や役務を指定している場合には、商品や役務ごとに分割して譲渡することができます(商標法第二十四条の二)。この場合に注意することがあります。
出願して登録を受けるときには、他人の先出願先登録商標と類似する商標は登録を受けることができません。これは、そのような商標は、他人の商品や役務の出所と混同を生じることになり、これを防止するために、後願は登録を受けることができない、としたものです。ところが、出願をして登録を受けるときには、自己の先出願先登録商標と類似しても、他人の商品や役務の出所と混同は生じないので、登録を受けることができます。そこで、登録を受けた後に、商品や役務ごとに分割して譲渡すると、類似する商品又は役務が、他人に移転する場合があります。これは、他人の商品や役務の出所と混同を生じる可能性のある状態です。
そのような状態にあることを注意しておく必要があるわけです。これは、商標権を譲る側と受ける側の双方に注意義務があります。具体的には、類似する商品について使用する登録商標が別々の商標権者に属することになった場合、一方の業務上の利益が害されるおそれがあれば、一方は他方に対して、混同を防ぐのに適当な表示を付すことを請求できます(商標法第二十四条の四)。適当な表示としては、例えば、商標に自己が業務を行っている地域の地名等を付して、需要者の注意を促し得るものであれば、よいとされます(特許庁編「工業所有権法逐条解説第18版」抜粋)。