433 不正使用による取消

 登録商標が保護を受ける範囲は、右図の*印の範囲ですが、商標の使用の仕方で注意しなければならないことがあります。
 一つは、商標権者が、故意に右図の禁止範囲で使用して、商品や役務の品質等の誤認を生じるものをする場合、又は、他人の商品や役務と混同を生じるものをする場合、第三者が取消審判を請求して、その商標権が取消される場合があります(商標法第五十一条)。
 もう一つは、専用使用権者又は通常使用権者(注参照)が、上図の保護範囲(*印)で使用して、故意でなくても、商品や役務の品質等の誤認を生じるものをする場合、又は、他人の商品や役務と混同を生じるものをする場合、第三者が取消審判を請求して、その商標権が取消される場合があります(商標法第五十三条)。

注参照:専用使用権者、通常使用権者とは、商標権者から商標権の譲渡を受けるのではなく、商標権者から契約等により使用許諾を得て、登録商標を使用できるようになる者をいいます(商標法第三十条及び第三十一条)。専用使用権は、専用使用権が設定される範囲では、単一の使用権しか設定できない、物件的効力を有するとされています(特許庁編「工業所有権法逐条解説第18版」抜粋)。言い換えれば、一人の専用使用権者のみが、独占排他的な使用権を有することになります。通常使用権は、同じ範囲に複数の使用権が重複して設定できる、債権的効力を有するとされます(特許庁編「工業所有権法逐条解説第18版」抜粋)。

 商標権者自身が、使用するのではなく、許諾を得た使用権者がする行為に起因して、商標権そのものが取消されるというのは、商標権者には少し酷な感じもします。使用権者が、需要者に商品や役務の品質等の誤認や混同を生じさせる弊害を、商標権の消滅という制裁で防止しようとするものです。商標権者は、使用許諾を制限なく、自由にできるが、他人に使用許諾したならば、その使用権者に対して、相当の監督義務を生ずることになります(特許庁編「工業所有権法逐条解説第18版」抜粋)。

 なお、商標権者自身が、上図の専有範囲で使用して、商品や役務の品質等の誤認を生じるものをする場合、又は、他人の商品や役務と混同を生じるものをする場合は、特に制裁規定はありません。登録商標に化体した信用を損ね、損害を受けるのは商標権者自身のみだからです。

 審判の手続き、答弁書提出等は、不使用取消審判と同じです。