215_3 先出願の他人の登録商標又はこれに類似する商標で、
その指定商品等について使用をするもの
条文では、「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」(商標法第四条第一項第十一号)となっています。
【説明】これは、先に出願された他人の登録商標と商標及び指定商品等が類似していることは、不登録事由になるというものです。特許庁の審査基準は、次のとおりです。
1.商標の類否の判断は、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察しなければならない。
2.商標の類否の判断は、商標が使用される商品又は役務の主たる需要者層(例えば、専門家、老人、子供、婦人等の違い)その他商品又は役務の取引の実情を考慮し、需要者の通常有する注意力を基準として判断しなければならない。
3.本号に該当する旨の拒絶理由通知において引用した登録商標の商標権者による取引の実情を示す説明書及び証拠の提出が出願人からあったときは、次のとおり取り扱うこととする。
(1) 本号の審査において、引用商標の商標権者による取引の実情を示す説明及び証拠が提出された場合には、取引の実情を把握するための資料の一つとして参酌することができる
ただし、次の場合を除く。
① 願書に記載された商標が同一又は明らかに類似(注1)し、かつ、願書に記載された指定商品又は指定役務も同一又は明らかに類似(注2)するものである場合
② 提出された書類が、取引の実情の客観的な説明及び証拠ではなく、単に商標登録出願に係る商標の登録について引用商標の商標権者が承諾している旨を示すものである場合
(注1)ここでいう商標の「同一又は明らかに類似」とは、例えば、商標法第50条における社会通念上同一と判断される商標、独立して出所表示機能を有する2以上の構成要素において、構成要素中の一が同一と判断される商標、及び、これらに準ずるほど類似していると判断される商標をいう。
(注2)ここでいう指定商品又は指定役務の「同一又は明らかに類似」とは、後記10.ないし12.の基準で掲げる商品・役務に係る類否の比較全項目について、一致する蓋然性が高いと判断されるものをいう。
(2) 上記(1)の取扱いにより提出された引用商標の商標権者による取引の実情を示す説明及び証拠を参酌した結果、本号に該当しないと判断し得るのは、次の場合に限られるものとする。
① 引用商標の指定商品又は指定役務と類似商品・役務審査基準において類似すると推定される指定商品又は指定役務の全てについて、取引の実情の説明及び証拠が提出され、それらを総合的に考察した結果、両者の商標又は指定商品若しくは指定役務が類似しないと判断し得る場合
② 引用商標の商標権について専用使用権又は通常使用権が設定されている場合にあっては、商標権者、専用使用権者及び通常使用権者の全てについて、取引の実情の説明及び証拠が提出され、それらを総合的に考察した結果、両者の商標又は指定商品若しくは指定役務が類似しないと判断し得る場合
4.振り仮名を付した文字商標の称呼については、次の例によるものとする。
(イ) 例えば、「紅梅」のような文字については、「ベニウメ」と振り仮名した場合であっても、なお「コウバイ」の自然の称呼をも生ずるものとする。
(ロ) 例えば、「白梅」における「ハクバイ」及び「シラウメ」のように2以上の自然の称呼を有する文字商標は、その一方を振り仮名として付した場合であっても、他の一方の自然の称呼をも生ずるものとする。
(ハ) 例えば、商標「竜田川」に「タツタガワ」のような自然の称呼を振り仮名として付したときは、「リュウデンセン」のような不自然な称呼は、生じないものとする。
5.結合商標の類否は、その結合の強弱の程度を考慮し、例えば、次のように判断するものとする。ただし、著しく異なった外観、称呼又は観念を生ずることが明らかなときは、この限りでない。
(1) 形容詞的文字(商品の品質、原材料等を表示する文字、又は役務の提供の場所、質等を表示する文字)を有する結合商標は、原則として、それが付加結合されていない商標と類似する。
(例) 類似する場合
「スーパーライオン」と「ライオン」
「銀座小判」と「小 判」
「レデイグリーン」と「レ デ イ」
(2) 大小のある文字からなる商標は、原則として、大きさの相違するそれぞれの部分からなる商標と類似する。
(例) 類似する場合
「富士白鳥」と「富士」又は「白鳥」
「サンムーン」と「サン」又は「ムーン」
(3) 著しく離れた文字の部分からなる商標は、原則として、離れたそれぞれの部分のみからなる商標と類似する。
(例) 類似する場合
「鶴亀 万寿」と「鶴亀」又は「万寿」
(4) 長い称呼を有するため、又は結合商標の一部が特に顕著であるため、その一部分によって簡略化される可能性がある商標は、原則として、簡略化される可能性がある部分のみからなる商標と類似する。
(例) 類似する場合
「cherryblossomboy」と「チェリーブラッサム」
「chrysanthemumbluesky」と「クリサンシマム」又は「ブルースカイ」
(5) 指定商品又は指定役務について慣用される文字と他の文字とを結合した商標は、慣用される文字を除いた部分からなる商標と類似する。
(例) 類似する場合
清酒について「男山富士」と「富士」
清酒について「菊正宗」と「菊」
興行場の座席の手配について「プレイガイドシャトル」と「シャトル」
宿泊施設の提供について「黒潮観光ホテル」と「黒潮」
(6) 指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として、その他人の登録商標と類似するものとする。
ただし、その他人の登録商標の部分が既成の語の一部となっているもの等を除く。
(例) 類似する例
テープレコーダについて「SONYLINE」、「SONY LINE」又は「SONY/LINE」と「SONY」
化粧品について「ラブロレアル」と「L‘0REAL」「ロレアル」
かばん類について「PAOLOGUCCI」と「GUCCI」
航空機による輸送について「JALFLOWER」と「JAL」
映画の制作について「東宝白梅」と「東宝」
類似しない例
金属加工機械器具について「TOSHIHIKO」と「IHI」
時計について「アルバイト」と「ALBA/アルバ」
遊戯用機械器具について「せがれ」と「セガ」
(注)需要者の間に広く認識されているか否かの認定に当たっては、不登録理由第4条第1項第10号の審査基準7.を準用する。
(7) 商号商標(商号の略称からなる商標を含む。)については、商号の一部分として通常使用される「株式会社」「商会」「CO.」「K.K.」「Ltd.」「組合」「協同組合」等の文字が出願に係る商標の要部である文字の語尾又は語頭のいずれかにあるかを問わず、原則として、これらの文字を除外して商標の類否を判断するものとする。
6.(1) 商標の構成部分中識別力のある部分が識別力のない部分に比較して著しく小さく表示された場合であっても、識別力のある部分から称呼又は観念を生ずるものとする。
(2) 商標が色彩を有するときは、その部分から称呼又は観念を生ずることがあるものとする。
(3) 商標の要部が、それ自体は自他商品の識別力を有しないものであっても、使用により識別力を有するに至った場合は、その部分から称呼を生ずるものとする。
7.商標の称呼の類否を称呼に内在する音声上の判断要素及び判断方法のみによって判断するときには、例えば、次の(Ⅰ)及び(Ⅱ)のようにするものとする。
(Ⅰ) 商標の称呼類否判断にあたっては、比較される両称呼の音質、音量及び音調並びに音節に関する判断要素(〔注1〕ないし〔注4〕)のそれぞれにおいて、共通し、近似するところがあるか否かを比較するとともに両商標が特定の観念のない造語であるか否か(例えば、明らかな観念の違いによってその音調を異にしたり、その称呼に対する注意力が異なることがある。)を考慮し、時と所を異にして、両商標が称呼され、聴覚されるときに聴者に与える称呼の全体的印象(音感)から、互いに相紛れるおそれがあるか否かによって判断するものとする。
両商標が下記(Ⅱ)の(1)ないし(8)の基準〔注5〕のいずれかに該当〔 注6〕するときは、原則として、〔注7〕称呼上類似するものとする。
〔注1〕音質(母音、子音の質的きまりから生じる音の性質)に関する判断要素としては、
(イ) 相違する音の母音を共通にしているか、母音が近似しているか
【例えば、1音の相違にあって(i)その音が中間又は語尾に位置し、母音を共通にするとき、(ii)子音が調音の位置、方法において近似(ともに両唇音であるとか、ともに摩擦音であるとかのように、子音表において、同一又は近似する調音位置、方法にある場合をいう。ただし、相違する音の位置、音調、全体の音数の多少によって異なることがある。) し、母音を共通にするとき等においては、全体の音感が近似して聴覚されることが多い。】
(ロ) 相違する音の子音を共通にしているか、子音が近似しているか
【例えば、1音の相違にあって(i)相違する音の子音がともに50音図の同行に属しその母音が近似(例えば、口の開き方と舌の位置の比較から、母音エはアとイに近似し、母音オはアとウに近似する。ただし、相違する音の位置、音調、全体の音数の多少によって異なることがある。)するとき、(ii)相違する音が濁音(ガ、ザ、ダ、バ行音)の半濁音(パ行音)、清音(カ、サ、タ、ハ行音)の違いにすぎないとき等においては、全体の音感が近似して聴覚されることが多い。】
等が挙げられる。
〔注2〕音量(音の長短)に関する判断要素としては、(イ)相違する音がその前母音の長音であるか(長音の有無にすぎないか)、(ロ)相違する音がその後子音の長音であるか(促音の有無にすぎないか)等が挙げられる。
音の長短は、長音、促音が比較的弱く聴覚されることから、音調(音の強弱)と関係があり(通常、長音、促音の前音が強く聴覚される。)、また、長音、促音は発音したときに1単位的感じを与えることから、1音節を構成し音節に関する判断要素とも関係がある。
〔注3〕音調(音の強弱及びアクセントの位置)に関する判断要素としては、
(イ) 相違する音がともに弱音(聴覚上、ひびきの弱い音)であるか、弱音の有無にすぎないか、長音と促音の差にすぎないか(弱音は通常、 前音に吸収されて聴覚されにくい。)
(ロ) 相違する音がともに中間又は語尾に位置しているか(中間音、語尾 音は比較的弱く聴覚されることが多い。)
(ハ) 語頭若しくは語尾において、共通する音が同一の強音(聴覚上、ひびきの強い音)であるか(これが強音であるときには、全体の音感が近似して聴覚されることが多い。)
(ニ) 欧文字商標の称呼において強めアクセントがある場合に、その位置が共通するか
等が挙げられる。
音の強弱は音自体(口の開き方の小さな音、イ・ウ、口を開かずに発せられる音、ム・ン、声帯が振動せずに発せられる音、フ・ス等は聴覚上、明瞭でないために弱音とされる場合)からだけでなく、相違する音の位置、全体の音数の長短等によって、相対的にその強弱が聴覚されることが多い。(例えば、相違する1音が音自体において上記のような弱音であっても、その前後の音も弱音である場合には弱音とはいえない場合がある。)
〔注4〕音節に関する判断要素としては、
(イ) 音節数(音数。仮名文字1字が1音節をなし、拗音は2文字で1音節をなす。長音(符)、促音、撥音もそれぞれ1音節をなす。)の比較において、ともに多数音であるか(1音の相違があっても、音数が比較的多いときには、全体の音感が近似して聴覚されることが多い。)
(ロ) 一つのまとまった感じとしての語の切れ方、分かれ方(シラブル、息の段階)において共通性があるか(その共通性があるときには、全体の音感が近似して聴覚されることが多い。)
等が挙げられる。
〔注5〕これらの基準は、両商標が称呼上、類似すると判断された事例にあって判断を構成した主たる要素として、また、各事例に共通する要素となるものを整理し、列挙したものである。
〔注6〕基準(1)ないし(8)(及びそれらの事例)と〔注1〕ないし〔注4〕に記載された判断要素との関係は、基準(1)ないし(3)が主として音質に関するものであり、基準(4)は主として音調、基準(5)は主として音量、基準(6)及び基準(7)は主として音節、基準(8)は、各判断要素に関するものである。なお、〔注1〕ないし〔注4〕に記載されていないが考慮すべき判断要素として、発音の転訛の現象(例えば、連続する2音が相互にその位置を置換して称呼されるような場合)が挙げられる。
〔注7〕基準(1)ないし(8)に該当する場合であっても、つぎに挙げる(イ)ないし(ハ)等の事由があり、その全体の音感を異にするときには、例外とされる場合がある。
(イ) 語頭音に音質又は音調上著しい差異があるとき
(ロ) 相違する音が語頭音でないがその音質(例えば、相違する1音がともに同行音であるが、その母音が近似しないとき)音調(例えば、相違する音の部分に強めアクセントがあるとき)上著しい差異があるとき
(ハ) 音節に関する判断要素において
(ⅰ)称呼が少数音であるとき(3音以下)
(ⅱ)語の切れ方、分かれ方(シラブル、息の段落)が明らかに異なるとき
なお、基準(6)及び(7)は、基準(1)ないし(5)に該当しない場合に適用される。
(Ⅱ)(1) ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が母音を共通にするとき
「スチッパー」と「SKiPPER」(スキッパーの称呼)
「VANCOCIN バンコシン」と「BUNCOMIN バンコミン」
「ミ ギ オ ン」と「ミ チ オ ン」
(2) ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が50音図の同行に属するとき
「ア ス パ」と「ア ス ペ」
「アトミン Atomin」と「ATAMIN アタミン 」
「VULKENE」(バルケンの称呼)と「VALCAN」(バルカンの称呼)
(3) ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が清音、濁音、半濁音の差にすぎないとき
「HETRON」(ヘトロンの称呼)と「PETRONペ ト ロ ン」
「KUREKA ク レ カ」と「GLECAグ レ カ」
「サンシール」と「SANZEEL サンジール」
(4) 相違する1音がともに弱音であるか、又は弱音の有無の差にすぎないとき
「DANNEL」(ダンネルの称呼)と「DYNEL」(ダイネルの称呼)
「山 清 やませい」と「ヤ マ セ」
「VINYLA」(ビニラの称呼)と「Binilus」(ビニラスの称呼)
(5) 相違する1音が長音の有無、促音の有無又は長音と促音、長音と弱音の差にすぎないとき
「レーマン」と「Leman レ マ ン」
「コロネート」と「CORONET」(コロネットの称呼)
「たからはと」と「タカラート」
(6) 同数音からなる比較的長い称呼で1音だけ異なるとき
「サイバトロン」と「サイモトロン」
(7) 比較的長い称呼で1音だけ多いとき
「CAMPBELL」(キャンプベルの称呼)と「Cambell キャンベル 」
「BPLEX ビプレックス」と「ビタプレックス VITAPLEX」
(8) その他、全体の音感が近似するとき
(イ) 2音相違するが上記(1)ないし(5)に挙げる要素の組合せであるとき
「COREXIT」(コレクシットの称呼)と「コレスキット」
「ビセラジン」と「ビゼラミン」
「フレーゲン」と「Frigen フリゲン ふりげん」
「天 神 丸」(テンジンガンの称呼)と「電 信 丸」(デンシンガンの称呼)
「COMPA コ ン パ」と「COMBER コ ン バ ー 」
(ロ) 相違する1音が拗音と直音の差にすぎないとき
「SAVOVET サボネット」と「シャボネット」
(ハ) 相違する音の一方が外来語におこなわれる発音であって、これと他方の母音又は子音が近似するとき
「TYREX」(タイレックスの称呼)と「TWYLEX」(トウイレックスの称呼)
「FOLIOL」(フォリオールの称呼)と「HELIOL ヘリオール 」
(ニ) 相違する1音の母音又は子音が近似するとき
「サリージェ SALIGZE」と「Sally Gee」(サリージーの称呼)
「CERELAC」(セレラックの称呼)と「セレノック SELENOC」
(ホ) 発音上、聴覚上印象の強い部分が共通するとき
「ハ パ ヤ」と「パ ッ パ ヤ」
(ヘ) その他
「POPISTAN ポピスタン 」と「HOSPITAN ホスピタン 」
「注.( )内の称呼は審決等で認定されたものである。」
8.(1) 立体商標の類否は、観る方向によって視覚に映る姿が異なるという立体商標の特殊性を考慮し、次のように判断するものとする。ただし、特定の方向から観た場合に視覚に映る姿が立体商標の特徴を表しているとは認められないときはこの限りでない。
(イ) 立体商標は、原則として、それを特定の方向から観た場合に視覚 に映る姿を表示する平面商標(近似する場合を含む。)と外観において類似する。
(ロ) 特定の方向から観た場合に視覚に映る姿を共通にする立体商標(近似する場合を含む。)は、原則として、外観において類似する。
(ハ) 立体商標は、その全体ばかりでなく、原則として、特定の方向から観た場合に視覚に映る姿に相応した称呼又は観念も生じ得る。
(2) 立体商標が立体的形状と文字の結合からなる場合には、原則として、当該文字部分のみに相応した称呼又は観念も生じ得るものとする。
9.(1) 地域団体商標として登録された商標については、使用をされた結果商標全体の構成が不可分一体のものとして需要者の間に広く認識されている事情を考慮し、商標の類否判断においても、商標全体の構成を不可分一体のものとして判断することとする。
(2) 地域団体商標として登録された商標と同一又は類似の文字部分を含む後願の他人の商標は、(1)で述べた地域団体商標の事情を考慮し、原則として、地域団体商標として登録された商標と類似するものとする。
10.商品の類否を判断するに際しては、次の基準を総合的に考慮するものとする。この場合には、原則として、類似商品・役務審査基準によるものとする。
(イ) 生産部門が一致するかどうか
(ロ) 販売部門が一致するかどうか
(ハ) 原材料及び品質が一致するかどうか
(ニ) 用途が一致するかどうか
(ホ) 需要者の範囲が一致するかどうか
(ヘ) 完成品と部品との関係にあるかどうか
11.役務の類否を判断するに際しては、次の基準を総合的に考慮するものとする。この場合には、原則として、類似商品・役務審査基準によるものとする。
(イ) 提供の手段、目的又は場所が一致するかどうか
(ロ) 提供に関連する物品が一致するかどうか
(ハ) 需要者の範囲が一致するかどうか
(ニ) 業種が同じかどうか
(ホ) 当該役務に関する業務や事業者を規制する法律が同じかどうか
(ヘ) 同一の事業者が提供するものであるかどうか
12.商品と役務の類否を判断するに際しては、例えば、次の基準を総合的に考慮した上で、個別具体的に判断するものとする。ただし、類似商品・役務審査基準に掲載される商品と役務については、原則として、同基準によるものとする。
(イ) 商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一般的であるかどうか
(ロ) 商品と役務の用途が一致するかどうか
(ハ) 商品の販売場所と役務の提供場所が一致するかどうか
(ニ) 需要者の範囲が一致するかどうか
上記2.の「取引の実情を考慮」については、例えば、次の事例があります。繊維メーカである甲社は、図1(称呼「ひょうざんじるし」)の商標を指定商品「硝子繊維」に使うものとして、出願しました。しかし、特許庁の出願審査にて、先に出願された和装メーカであるA社(商号「株式会社しょうざん」)の登録商標である図2(称呼「しょうざん」)と商標が類似し、指定商品「糸」と類似していると判断され、第四条第一項第十一号に該当するものとされ、登録を拒絶されました。
甲社はこれを不服として、特許庁に抗告審判を請求しましたが、請求不成立の審決があったので、甲社は両商標の称呼における非類似を主張して、特許庁を被告として、東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起しました。
東京高等裁判所では、甲の請求を容れ、特許庁の審決を取り消しました。これに対して、特許庁は、東京高等裁判所の判決は、「類否の判断に適用する過誤をおかしたもの」として、最高裁判所に上告しました。
最高裁判所では、東京高等裁判所の判決は、「両商標の称呼は近似するとはいえ、なお称呼上の差異は容易に認識しえられるのであるから、硝子繊維糸の前叙のような特殊な取引(注*)の実情のもとにおいては、外観および観念が著しく相違するうえ称呼においても右の程度に区別できる両商標をとりちがえて商品の出所の誤認混同を生ずるおそれは考えられず、両者は非類似と解したもの」と理解することができるとしました。
また、東京高等裁判所の判決が、「右両者は称呼において類似するものでない旨を判示した点は、論旨(特許庁の上告理由)の非難するところであるが、硝子繊維糸の取引の実情に徴し、称呼の対比考察を比較的緩かに解して妨げないこと前叙(注*)のとおりであつて、この見地から右の程度の称呼の相違をもつてなお非類似と解したものと認められる」という判示を、あながち失当というべきではないとし、東京高等裁判所の判断に過誤はないと判決しました。
こうして、上記2.の「取引の実情を考慮」して、甲社の出願を拒絶する審決が取り消しされました。(最高裁判所昭和39年(行ツ)第110号)
(注*)「前叙のような特殊な取引」とは、東京高等裁判所の判決が、硝子繊維糸の取引において、商標が商品の出所を識別する機能を有することを無視したわけではなく、「そこには商標の称呼の類似から商品の出所の混同を生ずるというような一般取引における経験則はそのままには適用しがたく、商標の称呼は、取引者が商品の出所を識別するうえで一般取引におけるような重要さをもちえない」旨を判示したという最高裁判所の判断に示されています。
また、「前叙のような特殊な取引」とは、東京高等裁判所の判決が、「その商標の類否を判定するにあたり、硝子繊維糸の現実の取引状況を取りあげ、その取引では商標の称呼のみによつて商標を識別し、ひいて商品の出所を知り品質を認識するようなことはほとんど行なわれないものと認め、このような指定商品に係る商標については、称呼の対比考察を比較的緩かに解しても、商品の出所の誤認混同を生ずるおそれがない旨を判示したのを失当ということはできない」という最高裁判所の判断に示されています。
図1 甲社の出願商標
黒色の円形輪郭内の上半分に淡青色の空、下半分に濃青色の海面、中央部に海面に浮き出た氷山の図形を描き、円形輪郭内の上部周縁に「硝子繊維」、氷山の図形の下に「氷山印(称呼「ひょうざんじるし」)」、円形輪郭内の下部周縁に「日東紡績」の文字を記載している。
なお、本商標は平成22年9月現在では、登録が消滅しています。
図2 A社の登録商標
平成22年9月現在、登録を受けているのは第546899号などです。
A社は現在、和装メーカとしてだけでなく、伝統工芸の染物関連から京都観光事業にも、類似した商標を登録しています。
図3 【参考】甲社が、平成22年9月現在、登録を受けているのは、この称呼「かざんじるし」第1596030号などです。
甲社は1938年に日本で初めて、ロックウール(岩綿)の工業化を開始し、日本で初めて、ガラス繊維の製造方法を完成させました。その商標である火山は、岩石を高温度で加熱するその製造工程を連想させるものと思われます。