124 普通名称と普通でない名称

 商標登録をしていないと後から使うことができなくなる場合があるなど、商標登録の必要性 をご理解いただけたと思います。
 ここでは、逆に商標登録をしなくても使うことができる商標を簡単に説明しておきます。例えば、自分の氏名や正式な法人名称を普通の方法で表示する商標は、商標登録をしていなくても使うことができます。普通のことですが、自分の氏名は商標登録していなくても使うことができるのです。請求書や領収書などの私的・公的な証明書類に正式な法人名称を記載することは、商標登録をしていなくてもできるのです。商標法では、第二十六条に「商標権の効力が及ばない範囲」として定められています。但し、法人の名称でも略称(正式名称は○×△株式会社、略称は○×△)を使うときは、自己の法人の略称として著名になっていなければ、使うことができない場合があります。その略称について、多くの人が日常知らないとしても、他人がそれを略称として使っていたり、その他人がその略称について商標権を持っていたりする可能性があります。他の法人を表示する略称として著名であれば、その法人が商標権を持っていなくても、持っていればなおさら、それを使うことができないことはいうまでもありません。

 誰が製造・販売する商品であっても、その普通名称を普通の方法で表示する商標は、商標登録をしていなくても使うことができます。これも「商標権の効力が及ばない範囲」として定められているのです。例えば、商品「(果物の)林檎」に、商標「APPLE(英語の林檎の意)」(普通の文字で表す)を使うことは、商標登録していなくてもできます。商標「APPLE」は、商品「林檎」の普通名称であるからです。これらは、ごく普通のことで特別顕著性がないといいます。商標制度として保護するに値しないとともに、誰もが自由に使えるようにしておく必要があるものです。では、商品「電子計算機」に、商標「APPLE」(普通の文字で表す)を使うことは、できるでしょうか。商標「APPLE」は、商品「電子計算機」の普通名称ではありません。電子計算機に果物の名称ですから、ちょっと普通でなく特徴的です。この場合には、他人が商標権を持っている可能性があり、その場合には使うことができません。他人が商標権を今は持っていなくても、将来強力な商標権を獲得する場合には、それ以降は使うことはできなくなります。実際にマッキントッシュを製造販売するパソコンメーカーの”アップル インコーポレイテッド”が商標「APPLE」を指定商品「電子計算機」で取得しています。(商標登録第1758671号など)

 こうして、自分の氏名や普通の商品名称は、普通に表示する限り、商標登録していなくても使うことができます。しかし、名称や字体などが、ちょっと普通でない、特徴的な商標は、注意が必要です。他人が商標権を持っている可能性があるからです。そして、商標登録が必要です。将来使えなくなる可能性があるからです。

 現在と将来の他人の商標権に注意を払わなければならないとしたら、商標登録出願をしておくに越したことはありません。現在他人の商標権がないことについて特許庁のお墨付きを得るわけですし、将来他人の商標権が獲得されることを、特許庁が排除してくれるからです。