412 権利行使(差止め・損害賠償)

 商標権を侵害する者に対して差止めを請求したり、発生した損害の賠償を請求したりして商標を保護できることは、商標の保護で解説したとおりです。これらの請求を、商標権の権利行使といいます。

 その他の権利行使も含め、ここで概略を説明します。
(1)差止め請求(商標法第三十六条)
 商標権を侵害している者がいれば、その者に対して、商標権者は、侵害行為を停止するように請求できます。当事者同士で解決できない場合には、裁判所が侵害をしている者に対して、強制力を以って侵害行為の停止を命令するように、商標権者は、裁判所に訴え出ることができます。又、侵害するおそれのある者がいれば、その者に対して、商標権者は、侵害行為を未然に断念するように請求できます。
 商標権を侵害している限り、他人の自由な経済活動といえども、強制力を以って、停止させるのですから、最も直接的で、即時に効果を生じる、権利行使ということができます。

(2)損害の賠償請求(民法第七百九条)
 故意又は過失により、商標権等の他人の権利を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負います。商標権者の立場からは、損害の賠償請求ができます。
 侵害の事実の有無や賠償金額等について、当事者同士で解決できなければ、商標権者は裁判所に訴え出ることができます。ここで、請求する側が、相手方の故意又は過失を立証しなければならないところ、特許法第百三条を準用して、過失があったものと推定されます。これは、商標権の侵害は、業としての行為のみが該当することから、一応過失によってその行為をしたと推定し、立証責任を転換したものです。(特許庁編「工業所有権法逐条解説第18版」抜粋)

(3)信用回復の措置請求(特許法第百六条準用)
 他人の登録商標を無断で使用して、自己の商品に表示して製造・販売することは、他人の商標権を侵害する行為です。ここで、その商品の品質が、商標権者が製造・販売する商品に比べ劣悪である場合、その登録商標に化体・蓄積した商標権者の信用が失墜する場合があります。
 このような場合、商標権者は、侵害する者に対し侵害行為を停止させるだけでは足りず、損害の賠償を得るだけでは足りず、信用を回復しなければなりません。そのような場合のために、商標権者は、信用回復の措置を請求できます。例えば、新聞紙上に謝罪広告を掲載することを、侵害する者に対して請求できます。当事者同士で解決できなければ、商標権者は裁判所に訴え出ることができることは他の権利行使と同様です。
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